わたしの苗字は日本でも指折りの、よくある姓である。
そして下の名前も全く珍しくない。
この組み合わせの氏名の人物はいったい日本に何人いるのだろうかと、
ヒマをもてあましたわたしは同姓同名の人物を調べてみた。
めちゃくちゃいっぱいいた。
アーティスト(楽器の奏者)、医者(複数)、看護師、カットモデル、作詞家、料理教室講師、女子サッカー選手、なんかいろいろな研究者、小説家、県立学校の生徒会選挙の立候補者(マイナーやな…)などなど。
有名な芸能人にはいない。有名じゃない芸能人も出てこなかった。
あまりにありふれているから芸名には向いていないと思う。
実は他にも知っている。
ある漫画家が描いた漫画の中の主人公が、自転車を必死にこぎながら、
「佐藤たろ子ォォ!!(わたしのフルネーム(仮名))」とページいっぱいに叫んでいた。
父たろ夫が酒を飲んで電車で帰ってくる途中、電車に置きっぱなしになっていた雑誌の中でそれを見つけ、たろ夫はそのページだけ破って持って帰ってきてくれた。
「佐藤たろ子」は主人公ではない。主人公の彼女でもない。
そう、あまりにありふれた名前なので、わき役の名前にぴったりなのだ。
大昔の話だ。
だから何ということもない。
わたしは生きている。
・・・しかし結婚したから名前が変わった。
ありふれた名前から解放された。
解放されたと思った。
だけど夫の苗字はわたしの旧姓と一文字違いだった。
わたしの旧姓を知らない人が、わたしを旧姓で呼ぶ。
医師の診察に呼ばれるときとか。
病院で会計するときとか。
ちょっとした知り合いからも間違われたりする。
薬の袋にも旧姓で書かれたことがある。
旧姓の方があまりにありふれているので相手が勝手に読み間違えたり思い込んだりしてしまうのである。
一応、「わたしの名前は佐臓たろ娘です(仮)」と名乗ると、相手は申し訳なさそうに謝ってくる。
…でも実は、間違われたことがうれしかったりする。
「いいんですよぉ、わたしの旧姓、佐藤ですから!」とにこにこ話す。
申し訳ないと謝ってくれた先生は予想外の展開に困っていた。
昔の名前で呼ばれると、懐かしさを感じる。
なんだかほっこりする。
書き間違われた薬袋を持ち帰って、大切に保管したりしてみたりする。
今はもう、あの頃に戻ることはできないけど、
今を精いっぱい生きたいと思う。
今週のお題「激レア体験」
コロナ鬱にならないよう、ぼちぼちがんばるよ。